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東工大ニュース

超小型衛星搭載用Ka帯無線機の開発に成功

6G時代の衛星コンステレーションによる超広域、高速通信に貢献

公開日:2022.06.23

要点

  • CMOSフェーズドアレイICによる両円偏波同時Ka帯通信に世界で初めて成功
  • ビーム角に適応する円偏波補償回路およびインピーダンスチューナを提案
  • 超小型衛星搭載用Ka帯フェーズドアレイ無線機を開発

概要

東京工業大学 科学技術創成研究院 未来産業技術研究所の白根篤史准教授と同 工学院 電気電子系の岡田健一教授は、6G[用語1]時代の低軌道衛星コンステレーション[用語2]に利用可能な超小型衛星搭載用Ka帯[用語3]フェーズドアレイ[用語4]無線機を開発した。また、衛星通信における右旋?左旋の両円偏波[用語5]を同時に利用したKa帯高速通信を、CMOSフェーズドアレイICを用いて世界で初めて実現した。

従来の衛星搭載用無線機では、長距離通信かつ高精度な右旋?左旋両円偏波を実現するためにホーンアンテナのような一方向のみに高い利得を持つ大型のアンテナが用いられてきた。一方で、フェーズドアレイ無線機は基板上の平面アンテナ利用によるアンテナの小型化、さらにビームステアリング[用語6]機能による通信方向の制御が可能だが、両円偏波の精度がビームステアリング時に劣化してしまう欠点を持っていた。

本研究では、新たに提案する円偏波補償回路およびインピーダンスチューナ回路をフェーズドアレイICに集積することで、どのようなビーム角においても、両円偏波の精度を劣化させずに高速無線通信を実現することに成功した。本フェーズドアレイICは、標準シリコンCMOSプロセス[用語7]によって製造しており、衛星コンステレーションで必要とされる大量の超小型衛星の量産化やコスト低減に寄与する。

本研究成果は、6G時代の低軌道衛星コンステレーションを利用した超広域?高速衛星通信網や、5Gへの導入が検討されている非地上系ネットワークの利活用を加速させるものである。

研究成果の詳細は、6月19日から開催された国際会議RFIC 2022「Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2022」で発表された。

背景

次世代の移動体無線通信システムである6Gでは、地上だけでなく上空や宇宙といった、非地上のネットワークを用いた通信網の構築が期待されている。特に宇宙空間において、大量の小型人工衛星を地球に近い軌道に配置することで、僻地や海上、宇宙空間といった、これまでインターネットに接続することができなかった場所をカバーする超広域な通信エリアの実現が可能になる。さらに近年甚大化する自然災害の発生時においても堅牢な通信を提供することができる。このように衛星コンステレーションによって、どこでも、いつでも、だれもがつながることができる通信ネットワークの実現が期待されている。

課題

従来の衛星搭載用の無線機では、長距離かつ高精度な右旋?左旋両円偏波を実現するために、ホーンアンテナのような一方向にのみ高い利得を持つ大型のアンテナが用いられてきた。 このようなアンテナでは、低軌道衛星において常に地球を指向するために大規模な姿勢制御機構が必要となり、超小型衛星への搭載が困難であった。

一方で、フェーズドアレイ無線機を用いることで基板上の平面アンテナによるアンテナ部の小型化、さらにビームステアリング機能による姿勢制御無しでの通信方向の制御が可能となる。しかし、フェーズドアレイ無線機においては、円偏波の精度がビームステアリング時に劣化してしまい、両円偏波を用いた高速通信が困難であるという課題があった。

研究成果

本研究では、新たに円偏波補償回路およびインピーダンスチューナ回路を考案することで、どのようなビーム角においても円偏波精度を劣化させることなく両円偏波を用いた高速な無線通信に成功した。今回考案した円偏波補償回路は、円偏波の精度を決める2つの直交信号の振幅および位相を正確にIC内部で検出することができる。考案した回路構成では、2つの直交信号それぞれに対して同じ電圧検出回路を用いて振幅を検出し、再度同じ電圧検出回路を再利用して2つの信号の位相差を検出する。同じ検出回路を用いることで、回路間におけるミスマッチ無く、精度の高い振幅および位相情報を得ることができ、高精度の円偏波の実現を達成した。

考案したインピーダンスチューナ回路は、ビームステアリングによるアンテナインピーダンス変化をフェーズドアレイIC側で補償することで、どのビーム角においても高い電力効率で通信することを可能にする。一般に地上では、アンテナのインピーダンスは、アンテナの近くにものがあったり、周りの電磁場の状況によってさまざまに変化する。一方で、人工衛星のアンテナにおいては、アンテナのインピーダンスは、ビームステアリングの設定される角度によってのみ変化するために、比較的狭い範囲でのインピーダンス変化となる。本研究では、人工衛星のビームステアリングに特化したインピーダンスチューナ回路を新たに開発し、フェーズドアレイICに集積化することに成功した。

プロトタイプのKa帯フェーズドアレイ無線機は、8個のフェーズドアレイICと32素子のアレイアンテナで構成した(図1)。フェーズドアレイICは、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセスを用いて製造を行い、1チップに8系統のトランシーバを集積し、4素子の両円偏波対応アンテナを駆動することが可能である。1系統あたりの面積は、0.38 mm2と小さく、出力電力と消費電力で定義される送信電力効率は14.4%と他の衛星搭載向けの無線機と比べて高い効率を達成した。

図1 試作したKa帯フェーズドアレイ無線機およびIC

図1. 試作したKa帯フェーズドアレイ無線機およびIC

本無線機と測定評価用のアンテナを用いたOTA(Over The Air)測定[用語8]により、無線通信特性の評価を行った。考案した円偏波補償回路およびインピーダンスチューナ回路を利用することで、1.39倍の電力効率の改善、さらに右旋?左旋の両円偏波で16APSK変調[用語9]時に14.8 dB以上のEVM(Error Vector Magnitude)[用語10]改善の効果を確認した(図2)。

図2 考案したインピーダンスチューナおよび円偏波補償回路の効果 ビーム角-60°条件(LT?PC機能なし)では通信精度が劣化するが、LT?PC機能ありの場合、0°の場合と同程度の精度を保つことに成功。(OTA測定評価結果)

図2. 考案したインピーダンスチューナおよび円偏波補償回路の効果

ビーム角-60°条件(LT?PC機能なし)では通信精度が劣化するが、LT?PC機能ありの場合、0°の場合と同程度の精度を保つことに成功。(OTA測定評価結果)

今後の展開

今回開発に成功したKa帯フェーズドアレイ無線機は、数年以内に小型衛星に搭載し、実際に打ち上げ、宇宙実証を行うことを計画している。今後、超小型衛星におけるフェーズドアレイ無線機の利用は飛躍的に増え、そのキーコンポーネントである衛星搭載可能なフェーズドアレイICの重要性は高まっていく。本研究は、世界に先駆けて量産性に優れるCMOSプロセスによって両円偏波対応のKa帯フェーズドアレイICを実現し、今後の衛星コンステレーション時代の到来を加速させる。

用語説明

[用語1] 6G : 移動通信システムは第1世代のアナログ携帯電話から始まり、性能が向上するごとに世代、つまりジェネレーションが変わる。「G」はジェネレーション(Generation)の頭文字。現在の携帯電話等は4Gから5Gに変わろうとしているフェイズである。6Gは5Gの次の世代の移動体通信システムとして、さらなる高速?大容量、多数接続、低遅延性能の向上に加え、これまで通信エリア化が難しかった地域や場所(海、空、宇宙等)を非地上ネットワークも利用することでエリアの拡大が検討されている。

[用語2] 衛星コンステレーション : 複数の衛星の一群?システム。SpaceX社のStarlinkでは2,000台以上の衛星群がインターネット網を構成する。

[用語3] Ka帯 : 一般には26-40 GHzまでの周波数帯域を示すが、衛星通信においては、衛星通信用に割り当てられているアップリンクの17-21 GHz、ダウンリンクの27-31 GHzの周波数帯を指す。

[用語4] フェーズドアレイ : 複数のアンテナへ位相差をつけた信号を給電する技術。放射方向を電気的に制御するビームフォーミングの実現に利用される。

[用語5] 円偏波 : 電磁波の進行方向に垂直な面内で、その励振周波数と等しい周期で電界の向きが回転している偏波のことである。水平偏波または垂直偏波を用いた直線偏波による無線通信により衛星通信を行うと、衛星の姿勢によって偏波方向が変わり、偏波面が定まらずに信号の受信が困難になる場合がある。これに対して円偏波による無線通信により衛星通信を行うと、偏波面を定めなくても信号の受信が可能となるという特性がある。さらに直交する左旋偏波および右旋偏波の両円偏波を同時に用いることで、通信速度を理想的には2倍にすることが可能となる。

[用語6] ビームステアリング : 電波を細く絞り、電波を集中的に任意の方向に発射、制御する技術。

[用語7] シリコンCMOSプロセス : CMOSプロセスはN型とP型のMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)を相補的に用いた集積回路であり、バイポーラプロセスと比較し消費電力の削減と高い集積率を実現したプロセスである。近年の集積回路はほぼCMOSプロセスとなっている。

[用語8] OTA(Over The Air)測定 : ケーブルを利用した接続に対して、アンテナを用いて電波伝搬を介した接続での測定。

[用語9] 16APSK変調 : 16 Amplitude Phase Shift Keying(16値振幅位相)変調。振幅と位相双方に情報を乗せて伝送する変調方式。1シンボルあたり4 bit 16値の情報を乗せることができる。

[用語10] EVM(Error Vector Magnitude) : 無線通信に用いられるデジタル変調の品質を示す尺度の一つ。理想的な信号と、測定された雑音や歪などの劣化を含む信号との間の、差分のベクトルの大きさから計算される。値が小さいほど品質の高い理想的な信号に近いことを示す。

発表情報

この成果は、6月19日(現地時間)から開催された国際会議RFIC 2022(Radio Frequency Integrated Circuits Symposium 2022)において、「A Ka-Band Dual Circularly Polarized CMOS Transmitter with Adaptive Scan Impedance Tuner and Active XPD Calibration Technique for Satellite Terminal(ビーム角に適応するインピーダンスチューナと交差偏波校正技術を用いたKa帯両円偏波CMOS送信機)」の講演タイトルで、現地時間6月20日午前9時00分から発表された。

講演セッション :
RMo1A-4: mm-Wave Transmitters and Receivers for Communication and 5G Applications
講演時間 :
6月20日午前9時00分(現地時間)
講演タイトル :
A Ka-Band Dual Circularly Polarized CMOS Transmitter with Adaptive Scan Impedance Tuner and Active XPD Calibration Technique for Satellite Terminal
(ビーム角に適応するインピーダンスチューナと交差偏波校正技術を用いたKa帯両円偏波CMOS送信機)
会議Webサイト :

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